労働の記録

26歳で職歴が無い私の数少ない労働の記録。


まず初めてのバイトは高校一年生の時。まだ15歳でした。

当時の私は中学生の頃から早くバイトがしたい、早く自分で金を稼ぎたいとずっと思っていました。

そして高校に入学するや否や友達がバイトしている近所のスーパーを紹介してもらい、そこでレジのバイトを始めました。

先に言っておきますがこのバイトは3ヶ月で辞めました。17〜21時の4時間、週5でシフトを入れていました。

時給は最低賃金で、月収は詳しく覚えていませんが6〜7万くらいだった気がします。初任給でセシルマクビーの安い財布を買ったことは覚えています。


なぜ3ヶ月で辞めたのか、色々な要素が重なって辞めた気がします。

まず人に見られながら作業をすることがすごく苦手だなと感じたのは覚えています。

客が買った商品をカゴに詰める作業。素早さも丁寧さも求められる。日頃から相手の反応を必要以上に窺ってしまう私にはこの作業がなかなか苦痛でした。

元々物凄く人見知りでコミュ障な私なので、接客自体がそもそも向いてはいないのですが、レジ業務は基本一人体制で出来る所がいいなとは思っていました。


そして辞めるにあたって割と大きな要因になったかもしれないと思うのは、意地悪な上司の存在でした。

年齢は20代前半だったと思います。見た目がアイシールド21ヒル魔にそっくりで、それまで私が大好きだったヒル魔がその上司に出会ってからはあまり好きではなくなったくらい、私はその上司が苦手でした。

彼は私が社会で出会った初めての嫌な人間だったのかもしれません。

なにぶん初めてのバイト、初めての上司で、きっとこういうものなのだろうと思っていました。

嫌な思いは何度もしました。帰りに公園に寄り道して一人頬を濡らしたこともありました。下校時の電車の中でこれからバイトかぁと思いながら涙して友達に心配されたこともありました。しかしそれらは全て私の心が弱いからだと思っていました。実際それもあるのですが、私がバイトを辞めた数ヶ月後、バイト先に残った友人からあの嫌な上司がクビにさせられ、最後は泣きながら店長に土下座をしていたと聞いて、「あぁ、ちゃんと嫌な人間だったんだなぁ」と安心してしまいました。

きっとみんなこういうものなんだ、私が弱いから耐えられないだけなんだ、という気持ちが少し救われた瞬間でした。


そしてもう一つ思い出すことは、別の部署の上司の存在です。上司というほど接点はなく、彼は確か惣菜かなんかの業務の偉い人だったと思います。

ラストまでレジ業務をしている私のレジでこの後食べるであろう店の弁当を買って退勤するおじさんでした。確か30代前半で、人は良さそうな感じです。

同じレジ業務の女の先輩から、その惣菜おじさんが私のことを「レジに清楚で可愛い女の子が入ってきた」と言っていたことを聞かされたので、なんとなく私のことを気に入ってるおじさんなんだな、気持ち悪いなと思っていました。

そしてある日バイト後、店の前で惣菜おじさんに待ち伏せされていました。

どんな話をしたかは詳しく覚えていませんが、私は身長が高いので、「君にはニーハイブーツが似合いそう」だとかそんなくだらない会話の一部はなぜか覚えています。そして半ば強制的にメアドを交換させられました。今度ユニバに行こうみたいな話もしました。

30代のおじさんと15歳の女子が二人でユニバに行くのはおかしいだろと思っていましたが、それを友達に話すと「みんなで行こうって意味に決まってんじゃん」と笑われました。おじさんが気持ち悪いあまりに、勝手に私が二人きりだと勘違いしていたのかもしれません。

その真偽はどうでもいいのですが(結局行かなかったので)、メアドを交換してから、惣菜おじさんからは気持ち悪いメールが届きました。気持ち悪いといってもセクハラ的な文面や陰部の画像を送りつけてきたりなどはありません。ただ仲良くもない、私に好意を抱いているおじさんからメールが届くという状況が15歳の私には気持ち悪かったんです。

そのおじさんの存在はバイト先を辞める一因にもなっていたかもしれません。このままエスカレートしていくのは嫌だ、でもどうやって拒否すればいいか分からない、と悩んではいたので。

辞めた後もメールや電話が届いたことを覚えています。悩みがあったらなんでも話してね、など本当に優しい文面です。相手が惣菜おじさんじゃなければ私の全てを打ち明け受け止めてほしいくらいです。しかし相手はおじさんなので、バイトを辞めたこともあり、しっかりきちんと着信拒否しました。


その他にバイトを辞めたかった理由としては、週5はしんどいだとか、時間がギリギリで学校が終わってから走らなきゃ間に合わないだとか、そういうくだらないものです。店長に掛け合えばいくらでも融通のきく問題です。しかし色々なことが重なってたこともあり、辞めるに至りました。

私はこういう、相談すればなんとかなるような内容を相談出来ず全て終わらせてしまうみたいなことを人生で何度もしてきた気がします。人間関係なんかは特にそうです。


たった3ヶ月の初バイトで随分長く書きましたが、その後はアルバイトといったアルバイトはしなかったので、26年間の私の人生できちんと「労働」と呼べるのは本当にこのたった3ヶ月だと思います。


バイトを辞めた解放感で数ヶ月は何もしなかったのですが、数少ない貯金も底を尽きたので、次のバイトを探し始めました。

前職の経験もありもうレジは嫌だなと思っていたのですが、勝手が分かっているぶんスーパーは自分の中でハードルが低いなと感じ、新しくオープンするスーパーのベーカリー部門に応募しました。

しかし学生で平日は働ける時間が夕方〜夜と限られることもあり、折り合いがつかないのか、レジの方がいいんじゃないかと面接の際に勧められ、そこで私は断ることも出来ずまたレジのバイトを始めることになりました。

オープニングスタッフで開店前だったこともあり、遠くの他店に研修に行かされたりしました。

そしてある日事件というほどでもないことが起きるんですが、いつものように自転車で店の前まで来たのですが、どうしても行きたくないと感じ、逃げるようにUターンして帰宅してしまいました。

もちろん研修担当の方から連絡がきました。このままフェードアウトも考えましたが、さすがに申し訳がなく、謝罪してまた次から頑張ろうということになりました。

しかしその後一度研修に出たきりで結局私は辞めることにしました。やはりレジは嫌だと感じたからです。

辞めると言った後、店長に呼び出されました。何を言われるのかと怯えていましたが、その雰囲気が相手に伝わったのか「説教したい訳じゃないから」と前置きされ、この店に悪い所があったら教えてほしいと言われました。とても優しい店長でした。私自身の問題で、店にも店の人にも問題は何一つないと伝えました。実際そうでした。書いていて思い出したのですが、これは大学生の時の出来事です。ということは高校1年生の時に辞めたあのバイト以来、私は何もしていなかったんでしょうか?


思い出しました。私は高校生の時にメイド喫茶でバイトをしていました。

しかしバイトというほどのものではありません、研修を受け、オープン初日にバックれたので。

今思うとなぜメイド喫茶だったのか分かりません。

背が高く、声も低く、愛想もなく、あまりにも不向きではあるんですが、オタク故にメイド服への憧れがあり、時給も良いので面接を受けたら受かって…みたいな感じです。

駅前でビラ配ってたら酔っ払いに絡まれたり、同僚のどすこい系の気が強そうなメイドに声が小さいって怒られたり(その時隣にいた可憐な同僚が「声出してこ!」って言ってくれたのめちゃくちゃ可愛かったな)、あと印象に残ってるのが目の前で財布の中の小銭をぶちまけたおじさんがいて、うわっと思ったら目が合って、これは拾わにゃいかんやろと思ってスカートが汚れるのも厭わず屈んで拾うのを手伝ったら、拾い終わった時おじさんが私の目を見て一言「別に助けてもらおうと思って見たわけちゃうから」


…なんやねんこいつ!?こっちだってお礼が言ってほしくて手伝ったわけちゃうけどそれにしてもその言い草は…ないやろ!?

と内心思いながらも「アッハイ」と小さく一言返しただけで呆然としてたら近くにいた同僚のメイドが「めっちゃいい子〜」と私の行動を褒め称えてくれて、救われた。


そして面白いのが、その後駅前から店の前に移ってビラ配りを継続してたらさっきの小銭おじさんが来て私の顔を見た後左右にいたメイドに「めっちゃ可愛くない?」と言い放って去っていった。左右のメイドは自分が褒められた訳でもなく、なんなら隣の女が褒められその同意を求められ、心底困った顔で「はぁ…」と頷いていた。その時の私はツンデレかぁと思っていた。失礼なおじさんだけど内心私のことを可愛いと認めていてくれていたことで、さっきの傷心はチャラになった。


メイド喫茶の話はこれで終わりです。バイトあがる時に客に「これからシンデレラタイムなので〜」って説明せないなんかったのは今思い出してもなんやねんそれと思う。あとメイド喫茶のくせに立地がアレすぎてあからさまなオタクは来店せずグラサンかけてるような冷やかしのスーツの兄ちゃんばっか来てた。オープン初日というのはそういうものなのかもしれないけど。


そしてその後メイドバーの面接に応募して受かって行かなかったり、ガールズバーとスナックを1日だけ体験した話もあります。


コミュ障のくせになんでそんな仕事ばっか選ぶねんという感じなんですが、私はお酒が好きだったこともあり、また酒が入れば多少は人と喋れるはず(実際そんなことはなかった)、何よりここで人間性のクズさが出るのですが楽してお金が欲しいと思ってそんな仕事ばかり選んでいました。もう最低賃金でレジ打ちなんかしたくねーんじゃという気持ちでいっぱいでした。若くて可愛い女がなんでそんな仕事しなきゃいけねーんだよと思っていました。でも今思うと若い時に苦労しなかったから今そのツケが回ってきてるんだよと猛省しています。


先にガールズバーの話をします。一日で辞めたのでたいした話はありません。制服はバーテンダーみたいなやつです。

コミュ障ゆえ客との会話がまー続かない。一人で一方的によく分からん歴史の話をしてるおじいちゃんの相手は非常に楽でした。何を言ってるかはさっぱり分からないけど「すごーい」「知らなかったー」をひたすら連呼するロボットです。それで満足して金払って帰っていくおじいちゃん、素晴らしい…。

これは昔からなんですが、私は若い男がとにかく苦手です。昔から男女共に年寄りにしか好かれません。

おじいちゃんの次についた客は若い男でした。何を話していいか全く分からず、スプラトゥーンの話をした記憶があります。その男は私と同い年の同僚の女の子に貢いでいるらしかったです。二人の様子は非常に親しげでした。その時に、私にはこうやって人に貢がせたり、人に甘えたりねだったりする才能は全く無いなと感じました。


次はスナックに手を出しました。若い男が苦手ということもあり、高齢者にばかり好かれる私にはきっとこっちの方が合っているなと感じたからです。実際私のことを気に入って、うっとりしたような顔でじっと目を見つめぎゅっと手を握りボトルを入れてくれたおじさんもいました。しかし私は酒の入ったおじさんがいかにうるさくめんどくさいかを理解していませんでした。またこれは根本的な話なんですがうるさい音楽がガンガン流れる空間で私の話す声はあまりに小さく、酔った客に「なんてぇ!?聞こえへん!」と詰められようもんならそれだけでチビりそうになるくらい震え上がります。本当に向いてない。水商売に限らず、接客、全て…。その時に客に「この子頭がおかしいねーん」と言われ、酔った相手とはいえ、その一言で私は深く傷ついてしまい、結局その一日で辞めました。

そしてこれを書いていて気付きましたが、スーパーのレジでバイトをしていた時も客が台に買い物袋と商品を一緒に置いたので、そういうことだろうなとは思いつつ勝手に入れるのもよくないかな?と思ったので「こちらお入れしてもよろしいですか?」と確認をとったら「え?うん、あんた頭悪いな」と鼻で笑われ、落ち込みました。これはもう10年前の出来事ですが、こういうことって人はいつまでも覚えているものなんでしょうか。毎日毎日思い出して繰り返し悩まされるなんてことはないですが、ふとした時に思い出し傷つきます。人はこういうことって普通は忘れるんでしょうか。私は多分普通じゃないので、分かりません。しかし確実に分かることは、言った方は忘れているということです。


話が逸れました。

スナックのバイトはカラオケが備え付けてあるという点も私はダメでした。

私は昔から人前で歌うということが本当に苦手でした。友達はおろか、家族の前ですら歌えません。音痴だと馬鹿にされた記憶がある訳でもありません。なぜここまでの苦手意識を覚えてしまったのでしょうか。しかし昔から自分の声は嫌いでした。低くて、こもっていて。

スナックの募集要項には歌わなくても大丈夫と書いてありました。私はそれを信じて歌わなくていいんだーと思っていましたが初日から歌って歌ってとせがまれる。そりゃそうだよな、スナックってそういう場所じゃん。そこで頑なに嫌です歌いたくないですと拒否し続ければその場の空気はもちろん…。そしてその時に客に言われた言葉は今でも印象に残っています。

「別に上手な歌が聴きたいわけじゃないの。仕事疲れて、こういう店きて、酒飲んで、楽しくなって、君みたいな若い子が歌ってくれたらそれだけで元気出るの」

…酔っ払いのくせにめちゃくちゃ真理だなと感じました。その場の空気に馴染んで一緒に楽しむ、日頃の嫌なことから忘れさせてあげる手伝い。水商売において一番大事なサービスが私には出来ていない。そして出来ない。私には無理!そう感じて心が折れました。酔っ払いのおじさんと肩を組んで古いよく分からない曲を一緒に熱唱してあげるプリン頭の痩せたおばさんが輝いて見えました。


私の水商売の経験はこれが全てです。

メイド喫茶ガールズバー、スナック。どれも一日で辞め、計三日間が全てです。

そしてその三日間で私には無理な仕事だと実感しました。

キャバクラやラウンジに挑戦しなかったのは敷居が高かったからです。あんな華やかな世界は、私には無理です。


水商売を諦めた私が次に挑戦したバイトの話はまた後日書きます。

さすがに疲れました。